不動産の共有名義人の片方が死亡した場合の相続はどうなる?相続手続きの注意点や相続税を解説
- 2025.02.04
不動産を共有している方が亡くなると、その方の持ち分は相続の対象となります。そのため、もう片方の共有名義人が、亡くなった方の持ち分を優先的に取得できるわけではありません。
亡くなった方の相続人とのトラブルを回避するためには、事前に対策をとっておくことが重要です。
そこで今回は、不動産の共有名義人の片方が死亡した場合に、その方の持ち分を誰が取得するのかを解説します。相続手続きの注意点や相続税、トラブルを回避する方法などもご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
1.共有名義人の片方が死亡した場合の相続人は誰になる?
共有名義人の片方が死亡した場合、誰が相続人になるのでしょうか?亡くなった方(以下、「被相続人」といいます。)の持ち分を、誰が取得するのかについて解説します。
法定相続人が相続する
被相続人に法定相続人がいる場合は、法定相続人が共有持ち分を相続します。
法定相続人とは、民法で相続人として定められた人のことです。具体的には、次のように定められています。
常に相続人となる人:配偶者
第1順位:子どもや孫(直系卑属)
第2順位:両親や祖父母(直系尊属)
第3順位:兄弟姉妹
先順位の法定相続人がいる場合は、それより後の順位の人は相続人になれません。
例えば、被相続人に妻と2人の子どもがいた場合には、この3人が相続人となります。両親や兄弟姉妹がいたとしても、その人たちは相続人になりません。
夫婦で不動産を共有していて夫が先に亡くなったケースで、長男と二男がいるとすれば、妻・長男・二男が相続人となり、亡夫の持ち分を次のように分け合うことになります。
法定相続人 法定相続分 相続後の持ち分割合
妻 2分の1 4分の3
長男 4分の1 8分の1
二男 4分の1 8分の1
このように、存命中の共有名義人が法定相続人であっても、被相続人の持ち分をすべて取得できるとは限らないことに注意が必要です。
ただし、被相続人が遺言をしていれば、その内容が優先されます。遺言書がない場合でも、遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、法定相続分に従う必要はありません。
特別縁故者が取得する
法定相続人がいない場合には、相続財産清算人が選任された上で、被相続人の持ち分が特別縁故者に与えられることがあります。
特別縁故者とは、法定相続人ではなくても被相続人と生計を共にしていた人や、被相続人の療養看護に努めた人など、被相続人と特別の縁故があった人のことです。
特別縁故者がいる場合には、その人が被相続人の持ち分を取得してしまうため、存命中の共有名義人は取得できません。
法定相続人も特別縁故者もいないときは共有名義人が取得する
法定相続人も特別縁故者もいないときは、民法255条の規定に従い、存命中の共有名義人が被相続人の持ち分を取得します。
ただし、この場合も相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があることに注意しましょう。
2.共有名義人の片方が死亡した場合、相続手続きの流れ
ここでは、亡くなった共有名義人に法定相続人がいる場合の、相続手続きの流れと注意点について解説します。
遺言書がないか確認する
被相続人が遺言で持ち分の取得者を指定している場合には、その内容が優先されます。そのため、まずは遺言書がないかを確認しましょう。
自筆証書遺言が見つかった場合は、開封する前に、家庭裁判所で検認を受ける必要があることに注意が必要です。
相続人の調査を行う
遺言書がない場合には、法定相続人として誰がいるのかを調査する必要があります。
相続人の調査は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本や改正原戸籍謄本も含みます。)をすべて取り寄せて行います。
被相続人の前婚での子や認知した子など、今まで知らなかった相続人が存在するケースも珍しくありませんので、相続人の調査は欠かせません。戸籍謄本類は相続登記の手続などでも必要となりますので、早めに収集しておきましょう。
遺産分割協議を行う
相続人が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。
相続人全員が合意すれば、法定相続分にかかわらず、遺産の分け方を自由に決めることが可能です。存命中の共有名義人が法定相続人であれば、話し合いにより、被相続人の持ち分を単独で取得できる可能性もあります。
話し合いがまとまったら、合意した内容を記載した遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付することが必要です。
遺産分割協議は、相続人全員が参加して行わなければ無効になることにもご注意ください。
相続登記を申請する
以上の手続が完了したら、法務局で相続登記の申請を行います。
相続登記は2024年4月から義務化されていますので、必ず行いましょう。相続が発生してから3年以内に相続登記の申請をしなければ、10万円以下の過料という罰則が適用される可能性があることに注意が必要です。
相続税の申告・納付をする
遺産総額が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納付が必要となります。基礎控除額は、次の計算式で算出できます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人が3人いる場合なら、基礎控除額は4,800万円(3,000万円+600万円×3)です。
相続税の申告と納付は、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があることに注意しましょう。
3.共有名義人の片方が死亡した場合、相続税の計算方法
相続税の申告・納付が必要な場合は、以下の手順で相続税を計算します。
①課税遺産総額を算出
②法定相続分で相続したと仮定して相続税の総額を計算する
③実際の相続割合に応じて各相続人の相続税額を計算する
不動産を相続した場合、土地については、路線価が設定されている場合には「路線価方式」で、路線価が設定されていない場合には「倍率方式」で評価します。
建物については、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
ただし、土地や建物の種類によっては評価方法が異なることがあるので、注意が必要です。
また、相続税を計算する際には、初めから実際の相続割合に応じて相続人ごとの税額を計算するのではなく、いったん、法定相続分で相続したと仮定して相続税の総額を計算する必要があることにご注意ください。
相続税の負担を抑えるためには、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」をはじめとする、各種特例の適用も検討した方がよいでしょう。
4.共有名義の不動産相続でトラブルを回避する方法はある?
共有名義の不動産相続をめぐるトラブルを回避するためには、以下の方法が有効です。早めの対処を心がけましょう。
共有持分を生前贈与しておく
最も有効な対策は、生前に共有持ち分をもう片方の共有名義人に贈与することにより、共有状態を解消しておくことです。
ただし、年間110万円を超える財産を贈与すると、贈与税がかかることに注意が必要です。
また、生前贈与する相手が法定相続人の場合は、他の相続人から特別受益の持ち戻しを主張される可能性があります。特別受益の持ち戻しが認められると、生前贈与を受けていた相続人が取得できる遺産が少なくなってしまうことに注意が必要です。
遺言書を作成しておく
遺言書を作成することにより、遺産の分け方を指定することができます。ご自身の共有持ち分を、もう片方の共有名義人に相続させる旨の遺言書を作成しておけば、他の相続人の意向にかかわらず、確実に持ち分を渡すことが可能です。
ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分があり、遺言をもってしても遺留分を侵害することはできません。
もし、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成した場合には、共有持ち分を取得した相続人が、他の相続人から遺留分侵害額請求を受け、その金額の支払いを迫られる可能性があります。
家族信託を検討する
ご自身の死後における共有持ち分の承継者を決める方法として、家族信託も利用できます。
家族信託とは、ご自身が認知症などで判断能力が低下したときに備えて、保有資産の管理・処分・運用を信頼できる家族に託す制度のことです。
家族信託を利用すれば、遺言書とは異なり、次の相続における財産の取得者まで指定できます。
例えば、配偶者と共有している不動産について、「自分がなくなったときは持ち分を配偶者に相続させ、配偶者も亡くなったときは長男に相続させる」と指定することも可能です。
配偶者がもともと所有していた持ち分の相続先まで家族信託で指定することはできませんが、信頼できる家族を次の相続先として指定しておくことで、相続トラブルの回避に役立つでしょう。
ただし、家族信託は比較的新しい制度であるため、適切に対応できる専門家は、さほど多くないのが実情です。家族信託を検討する際には、相続問題に特に詳しい弁護士などの専門家へ相談することが重要となります。
まとめ
共有名義の不動産相続をめぐるトラブルを回避するためには、早めの対処が肝心です。生前であっても、認知症などで判断能力が低下した後では、有効な対策をとることができなくなります。
共有不動産の相続が気になる方は、相続問題に詳しい弁護士へお早めにご相談ください。
