相続人に認知症の者がいる場合はどうなるの?
- 2021.06.24
遺産分割協議は、相続人全員で行わなければ無効となります。 相続人に認知症の者がいて、その相続人が意志能力(遺産分割の内容を理解して判断する能力)を欠く場合は、そのような相続人のした意思表示は無効となりますので(民法3条2項)、遺産分割自体が無効となります。
認知症といっても症状の程度は様々ですので、いかなる場合にも無効となるわけではありませんが、後で認知症だった相続人が亡くなったときに、その相続人が、認知症の者がした遺産分割の意思表示は無効であるとしてその効力を争ってくることもあり得ます。 そのような場合に、認知症との診断が出ていたことが不利に認定され、遺産分割が無効と判断されるリスクがあります。
そのため、相続人に認知症の者がいる場合は、軽症の場合でも、
①医師に、長谷川式認知症簡易評価スケールなどの認知症検査を実施してもらい、その結果を書面でもらっておく
②遺産分割協議の様子を動画などで撮影しておき、協議の中で問題なく内容を把握して発言できていた証拠を残しておく ことによって、トラブルを予防しておくことが望ましいです。
また、認知症がある程度重く、「事理を弁識する能力が不十分」またはそれ以上と判断される場合は、家庭裁判所に対して成年後見や保佐、補助の申立てをしておくのが無難です。
成年後見人が選任された場合は、成年後見人が代理せずに本人がした行為は無効となり、 保佐人が選任された場合は、保佐人の同意なく本人がした遺産分割は取り消すことができ、 補助人が選任された場合は、遺産分割を補助人の同意の対象とした場合は、補助人の同意なく本人がした遺産分割を取り消すことができます。
逆に言うと、成年後見人(または代理権を与えられた保佐人)が遺産分割協議を行えば確実ですし、保佐人または補助人の同意書を取り付けておけば、遺産分割の確実性を高めることができると思われます。
ただし、他の相続人が成年後見人等を兼ねる場合は、その相続人と認知症の相続人とは利益相反関係にありますので、その相続人が代理権・同意権を行使することはできません。
この場合は、特別代理人(成年後見の場合)や臨時保佐人、臨時補助人の選任を家庭裁判所にしてもらう必要があります。